サイドストーリー

青木真也のONE入門:格闘技における「距離」とは?

2020年8月6日

格闘技の会話の中で、よく使われる言葉に「距離」があります。

選手同士の会話でも「距離が合わなかった」と出てきたり、コーチからは「距離を大切にしろ」とアドバイスが飛んだり、はたまた解説者からは「赤の選手の距離ですね」と当たり前のように「距離」が使われています。

大まかに「距離」を理解しているつもりでも実際に距離とは何かを説明するとなると言葉に詰まるのではないでしょうか。僕も説明する前に少し考えてからになってしまいます。

距離と一言に言いましても「距離」、「角度」、「リズム」の3つの要素から成り立っています。

距離は単純に相手との距離で相手とどのくらい離れているかです。真っ先に思い浮かぶのが相手との距離感だと思うので、これは説明不要でしょう。相手と立ち合ったとき、まずは自分が一番長い武器が届く距離で設定します。

僕の場合はミドルキックが自分が持ちうる武器の中で一番長い武器なのでミドルキックが届く距離で設定しています。短い武器だけに頼ると相手の攻撃を被弾する確率が上がるので長い武器は持ち合わせていた方がいいし、長い武器から徐々に短い距離の攻撃にシフトしていくのが定石です。何故ならばリスクが少ないからです。

次に相手との角度があります。これは相手に対して内側に立つのか、外側に立つのか。ここで言う内側は相手と正対して中に入ること、外側は相手と正対せずに相手の外側に立つことです。相手の前側の手の内側か外側かで考えるとわかりやすいです。どちらに立つのかで攻防が変わってくるので、自分の武器とスタイルを考えて、試合が有利に働く方を随時選択していきます。

僕の場合は相手の攻撃を極力、被弾したくないので相手の外側に立つようにしていくことが多いです。基本は相手の外側に陣取っていて、自分のパンチや膝を打ち込むときは(滅多にないです)内側に入って、すぐに外側に戻るか、クリンチに持っていきます。これまたリスクを徹底的に嫌う僕は外側を取ることを常に意識しています。ここらへんは選手の性格が出ます。博打を好むか好まないか。

最後はリズムです。ステップワークや攻撃のテンポなのですが、選手によって早いリズムもあれば、遅いリズムもあります。ここはどちらのリズムに合わせるかで試合の主導権を握るかが決まってくるので重要です。雑に言ってしまうとパンチ主体(ボクシング)の選手は踏み込んでから避けるテクニック、ステップインアウトを使うのでリズムが早い傾向がありますが、蹴り主体(ムエタイ)の選手はリズムがゆっくりな傾向です。

あとは階級によっても違って、軽ければリズムが速いし、重い階級はゆっくりで力強いリズムを踏んでいます。自分のリズムがその階級に合うか否かも重要になってくると思っています。僕はフェザー級で試合をしたときにはフェザー級のリズムに合いませんでした。ライト級でもゆっくりめのリズムの選手なので、フェザー級のリズムとなったら戸惑ってしまったことを覚えています。相手のリズムに合わせるのではなく、自分のリズムに合わせることが大切です。

「距離」に関しては練習を繰り返して、身体に自分の「距離」を滲み込ませるしかありません。

頭で考えることも大切ですが、まずは自分の武器を作らないと「距離」自体ができてきませんし、練習をやり込んだ上で考えてみようとなります。こればかりは机上でできる話ではないのです。机上で説明するのは簡単だけれども。試合を見る上で選手の距離を観客側が理解して、試合を見ると楽しみ方が広がるのではないでしょうか。

距離に関しては格闘技だけでなく、人間関係にも置き換えることができます。

距離、角度、リズムこれは人間関係においても同じことが言えて、少し苦手だなと感じたら距離を取ればいいし、角度をつけて工夫して、ほどよい付き合い方をすればいいのです。リズムがあわなくても、無理に合わせずに自分のリズムでいきましょう。これがマイペースです。

そんな本を出版しました。その名も「距離思考」よろしくお願いします。

青木真也(あおき・しんや2012年からONEチャンピオンシップで活躍。各種媒体で精力的に執筆活動を行っており日本格闘技界きっての⽂筆家としても知られている。2016年に上梓した同調圧力に負けない生き方を提案した著作「空気を読んではいけない」は、格闘技界内外で話題となった。新刊「距離思考 曖昧な関係で生きる方法徳間書店)好評発売中 

不定期連載コラム「青木真也のONE入門」では、青木が熱心な格闘技ファンにはもちろん、観戦初心者にも分かりやすくONEの魅力を選手目線で解説する。