サイドストーリー

リッチ・フランクリンの視点:テイクダウンの重要性と裏話

2019年9月9日

リッチ・フランクリンは、ONEの人材育成、発掘のためのリアリティ・ショー「ONEウォリアーシリーズ(OWS)」の番組ホストを務める。不定期にお届けするコラム「リッチ・フランクリンの視点」、今回は「ONE: DREAMS OF GOLD」で総合格闘技戦で初勝利を挙げた立ち技2冠女王のスタンプ・フェアテックスについてー。

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これだけ頻繁に世界中を旅していると、いつの間にか自分が興味深い物語や体験の百科事典になった気がする。

オフィスでの雑談を盛り上げるにはぴったりだ。大体、おしゃべりの中には旅の途中で得た洞察を一言、二言、入れ込まずにはいられない。抗えない教師の本能だといえるだろう。

こうして自分のコラムを書かせてもらえることは、思考を言葉に抽出し、誰よりも最初に読者のみなさんと分かち合う素晴らしい機会だ。

ということで、以下、今週の逸話と学びをお楽しみいただきたい。

Two-sport ONE World Champion Stamp Fairtex submits "Knockout Queen" Asha Roka with a TIGHT rear-naked choke in her ONE mixed martial arts debut! ????????

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Posted by ONE Championship on Friday, August 16, 2019

近年、アジアの総合格闘技界ではテイクダウンとテイクダウンディフェンスが非常に重要視されている。そこにはそれなりの理由がある。ONEウォリアーシリーズでは全体的なスキルに基づいてアスリートたちの才能を評価するが、それでもジョナサン・フォンも私もテイクダウンとテイクダウンディフェンスのスキルにはかなりの注意を払う。

タイのムエタイジムをいくつか訪れれば、理由は明白だ。多くのタイ人アスリートたちが、ムエタイから総合格闘技にフィールド移して成功している。

ムエタイという武術は、そもそも総合格闘技への移行にとても適していると思う。ムエタイ選手は、クリンチによるテイクダウンとテイクダウンディフェンスに非常に長けているからだ。他の立ち技の武術とは異なり、足払いのようなテクニックは自然にシステムに組み込まれており、ムエタイをやる者はとても効果的にそれらを使う。

最近では「ONE: DREAMS OF GOLD」におけるスタンプ・フェアテックスの勝利が良い例だ。ムエタイのスキルがいかに総合格闘技の試合において役立つか、スタンプの試合を簡単に分析しながら解説しよう。

Stamp Fairtex defeats Asha Roka via submission at ONE DREAMS OF GOLD

スタンプの総合格闘技ルール初試合を見るのはとても楽しみにしていた。どれだけ彼女が努力してきたかは明らかだっただろう。何よりもまず、強敵として立ちはだかったアシャ・ロカを称賛したい。繰り出されるパンチのコンビネーションは素晴らしかったし、ローキックも何度かヒットした。どの技も、スタンプにとって真の脅威となるほどではなかったが。

それでも、スタンプの戦いっぷりはめざましかった。第1Rで鮮やかなテイクダウンを決め、マウントに持ち込んだ。ロカが必死で後ろ向きに逃げ出すとすぐに横向きでのマウントに移行し、上に乗った状態を崩さず、またマウントをとった。

スタンプはこの試合でリスクを冒すことを辞さなかったのが、よくわかる。総合格闘技に初めて挑戦するアスリートなら、普通は、ただマウント状態を保ちパンチで攻めようとするだろう。

かわりに、スタンプは第1Rでいちかばちかポジションを変え、アームバーでのフィニッシュを狙いに行った。総合格闘技ルールで戦うことだけで満足しているわけではない。スタンプは、総合格闘技においても最強のアスリートになってみせると証明しようとしている。

試合全体を通じて、スタンプが見せたテイクダウンはまったく見事だった。ムエタイのスキルを全力で活用して、クリンチを用いて相手をマットに引きずり下ろす。最終的なサブミッション勝ちはある意味、おまけのようなものだった。

Stamp Fairtex submits Asha Roka via rear-naked choke

スタンプは、ムエタイのテクニックに完全に頼り切って楽に戦っていたように見えたかもしれない。だが、実際はそうではなかった。

スタンプは、柔術の技や、トップからサイドへの体重の移動、他にも寝技で質の高い戦いを見せるために必要不可欠な側面の数々など、かなり組み技のトレーニングを積んできたはずだ。それ以上に重要なことはない。真剣なトレーニングに代わるものなど何もないのだから。

ちなみに、これはムエタイやタイという国に限られたことではない。たとえば、日本を訪れてみるといい。日本には、伝統に深く根付いた武術、柔道があるため、日本人の中には生まれつき卓越したテイクダウンのスキルを持ったアスリートがいる。それを踏まえると、世界で活躍する日本人アスリートが比較的多いことも、決して驚きではないだろう。

特にアジアでは、テイクダウンとテイクダウンディフェンスのスキルが試合に大きな影響を及ぼすことは間違いない。テイクダウンが使えれば、いつ、どこで戦うかを自分で決めることができる。立ち技で試合を続けるか、マットに降りるか、というように。格闘家としてテイクダウンのスキルを磨くことを怠っていると、試合で非常に不利な立場におかれることになる。

今回、一番覚えておいてほしいことは、これだ。格闘家として世界で本当に通用する強さを身につけたいのであれば、テイクダウンとテイクダウンディフェンスをトレーニングの最重要課題とすることが必須だろう。

気分を変えて、ちょっと面白い話をしよう。

ご存じかもしれないが、OWSは年間6つのイベントを開催し36話を収録する。様々な場所を訪れ冒険するのだが、毎回、笑えるエピソードがたくさんある。あまりに多いので、旅が終わって帰国し、映像やNGシーンを見て初めて思い出すこともあるほどだ。その中でも、気に入っている出来事をひとつご紹介したい。

私たちチームが将来有望なアスリート、Rengga Raphaelと共にバリを訪れた時のこと、ジョナサンとRenggaと私はアヤムリチャリチャと呼ばれる料理を誰が一番うまく再現できるか勝負することになった。アヤムリチャリチャはスラウェシ北部でよく出てくる一品で、鶏肉をレモングラス、ライムの葉、チリと胡椒を挽いて混ぜたもので調理したものだ。グルメのアメリカ人として、この料理の美味しさは保証できる。

興味深いことに、この勝負が始まったきっかけは、Renggaが大学で調理師になるべく勉強していたのだが、格闘技の道に進むために結局は諦めた、という話からだった。アヤムリチャリチャを実際に食べて育ったのだから、現地の味を再現できなければ、彼の名は地に落ちる危機に瀕していた。

そしてまた、去年、私とジョナサンが東京を訪れた時、人力車を引く勝負でジョナサンがイカサマをしたことを私は忘れていなかった。今回、バリでの勝負で、ジョナサンは愚かにも私たちが作るのはアヤムリチャリチャだと思い込んでいた。私のレシピに書かれていたのは「因果応報」という言葉だけだということにも気づかずに。

私たちはまず、材料を買うために市場に向かうこととなった。ジョナサンは、先手を打とうと素早くヴァンに乗り込んだ。それが大間違いだった。その動きを読んでいた私は、先回りしてヴァンのバッテリーケーブルを抜いておいたのだ。私はさっさとスクーターに乗り、美しい景色を楽しみながら、ジョナサンより20分先に市場に到着した。

(※Rengga Raphaelのインスタグラム)

だが、それでもまだ復讐は十分ではなかった。東京での一件から、今回の勝負ではジョナサンを完膚なきまでにこてんぱんにしてやろうと決めていた。勝利の誘惑はあまりにも強く、私はバリ滞在中に住み込みで働いていた現地のメイドに、自分の代わりに料理を作ってくれるよう説得することまでしたのだった。

2人で急いで準備をしている時、彼女は誤って私の指をステーキナイフで切り、血がとまらなくなった。もちろん編集されて映らないようになっているが、ティッシュでぐるぐる巻きにしたその場しのぎの絆創膏で手を包んだままバリ大会の最終話の収録をしたのは、これまでOWSをやってきた中でも最高におかしな体験だった。

だが、それだけの価値はあった。市場から帰ってくる間に私がすりつぶしたチリペーストの出来の良さにショックを受けたジョナサンの惨めな表情を見ることができたのだから。最終的に勝利を収めたのはRenggaだったことは私の復讐劇においては予想外だったが、まったく「おいしい」話のネタができたので、良しとしておこう。

OWSを通して深めてきた私たちの絆のことを思う時、これらの愉快なエピソードはいつも私を微笑ませてくれる。

結局のところ、OWSは「人間力のビジネス」だ。開始以来、優秀なアスリートを発掘するだけでなく、アジア各地の多くの人々と友情を築いてこられたことはとても幸運だと思っている。バリでRenggaと再会する日を、今からすでに心待ちにしている。

ONEウォーリアーシリーズは、ONEチャンピオンシップ公式YouTubeで視聴できます。(現在は英語版のみ)