サイドストーリー

青木真也のONE入門:リング上の詰将棋・関節技

2020年3月16日

格闘技を実際に体験したことがない方から見ると関節技がわかりにくかったり、ケガをするのではないかと感じることがあるようです。格闘技選手として長く活動していると格闘技で起こるケガに対しての感覚も一般の方との認識のズレが生じてきます。

先日ちょっとした会話の中で寝技が分かりにくいとの声を聞いて、理屈がわかれば分かりにくさも少しは解消するだろうし、ケガをする恐怖感を払拭できれば格闘技に触れてくれるのではないかと考えて「関節技は危ないのか」のテーマで今回はお送りします。

そもそも関節技とはどんなものなのか。

柔道は肘以外の関節を攻めることを禁じていますが、総合格闘技は肘以外の関節も取ることが認められています。肩、膝、足首、手首、首、股関節と攻撃が許される範囲が広いので、多種多様な関節技を見ることができます。相手を制圧することに重点を置く軍隊格闘術では指の関節技を用いることがありますが、総合格闘技では簡単に骨が折れてしまうため、認められていません。指の関節技を認めてしまうと試合が成立しなくなってしまいます。分類としては股間への攻撃や目突きに近い分類だと認識しています。

Shinya Aoki submits Honorio Banario

関節技はいくら力を込めても理屈を理解していないと極まりません。

理があるものなので、しっかりと理解して、技をかけないと形だけになってしまい極めることができないのです。技の理屈だけなく相手の骨格への理解も必要なので、人体の仕組みから理解する、まさに知識の勝負なのです。技の理屈だけで終わってしまう選手が多いのですが、関節技の名手と言われる選手たちは人体の構造をよく理解しています。自分自身がケガをしたときや、相手に関節技でケガを負わせてしまったときも、ケガの度合いや全治から競技復帰までの大体の時間がわかるのは、人体の構造をよく理解しているからだと思います。

関節技と聞くとケガを連想して怖いと思ってしまう方もいるとは思うのですが、僕自身は関節技でケガをしたことはないですし、ケガをするときは投げ技を失敗したり、技に反応しきれなかったときです。個人的には柔道をしていたときのほうがケガをするリスクは高かったと感じています。投げ技がある競技なので無理に踏ん張ったり、投げられまいとしてケガをすることがあるからです。柔道では投げ技を決められて一本取られたら試合が終わりますが、その意味では投げでの一本決着がなく、受け身を取る選択肢が許されている総合格闘技は安全と言えるし、ONEの頭部から落とす投技を反則にしているルールは選手の安全を担保しているルールと言えるのではないでしょうか。

関節技の攻防が上級者同士で起こると理の積み上げ勝負であり、詰将棋のような攻防が繰り広げられます。僕が2017年5月にゲイリー・トノン選手(米国)と1ラウンド15分のグラップリングマッチで対戦したときはお互いに手を読み合うような攻防でやっている僕が楽しくなる試合でした。

トノン選手の得意とするヒールホールドで僕がタップアウトをしました。試合終盤、トノン選手が、足を4の字に絡める「サドルロック」という足関節を極める上で優位に進める重要なポジションを取ったところから、技を極める前の踵をつかんだ状態でトノン選手が一瞬間を置いています。そこで僕はもう逆転がないと詰められたことを認めてタップしているので、関節を痛める前の段階で技を解かれていて、ケガをすることはありません。これは他の関節技でも同様で、技の理をお互いに理解していれば、ケガをすることはありません。

関節技の攻防は理を理解することで、一見退屈に見える攻防に高度な頭脳戦が行われていて、見る側も楽しめると思います。ケガをするのでないかと恐れるのではなく、選手との体験会などで実際に試してみたり、それでも実際にやるのは敷居が高いと思う方は、寝技の基本知識を学んでみると、これからの試合観戦がより楽しくなるのではないでしょうか。

ONEの放送では解説者たちが丁寧にグラウンドの攻防を解説しているので、試合中にそちらに耳を傾けてみるのもいいでしょう。自分なりの楽しい観戦方法を見つけて、楽しく観戦してくれたら嬉しいです。

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