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ビタリー・ビグダシュ、極真空手が導いた格闘技人生

2020年3月14日

ビタリー・ビグダシュ(ロシア)は幼い頃、父親の仕事の関係で、ロシア中を引っ越して回る生活を送っていた。だが格闘技の練習を始め、心の拠り所を見付けた。

それが、ビグダシュをONE世界チャンピオンという総合格闘技の頂点まで導いた道のりの始まりだった。

ビグダシュは一旦はベルトを失ったが、勝利を積み重ねて再びベルトに手が届くところまで戻ってきた。「ONE INFINITY 1」でONEミドル級世界王者アウンラ・ンサン(ミャンマー)と、3度目の対戦に望むのだ。

待望の試合を前に、35歳のビグダシュがこれまでを振り返る。

銀幕のヒーロー

ビグダシュはロシア南西部、カザフスタンとの国境に近いオレンブルクで生まれた。だが軍の将校だった父親の仕事の関係で、家族は定期的に引っ越しをしなければならず、オレンブルクにいた時間は長くなかった。

ビグダシュは引っ越しばかりしていたが、80年代の格闘技アクション映画のブームに引きずり込まれた。

「小さい頃、格闘技映画がロシアで流行った。それでみんな、チャック・ノリスやジャン=クロード・ヴァン・ダムに憧れた。ヴァン・ダムのキックには非常に感銘を受けた」

「ブルース・リー主演の映画を見たとき、格闘技の虜になった。もう名前は忘れてしまったが、本当にその映画が大好きで、彼のようになりたいと思ったものだった。」

ビグダシュは映画のヒーローに憧れたが、彼らを真似て練習するような場所は、どこにもなかった。だが4年後、家族が再び引っ越した時に状況が変わった。

格闘技への情熱

ビグダシュが初めて格闘技を始めたのは、当時ロシアで流行っていた日本のフルコンタクトの極真空手だった。ロシア全土で多くの人が、ガレージや、裏庭、伝統的な道場などで極真空手を練習していた。

「自分たちはまた別の町に引っ越し、父の新しい同僚が小さな歓迎会を開いてくれた」

「彼らは父と同様に軍人で、格闘技が大好きだった。そのうちの1人が、極真会でトレーニングをしている人々のテープを持ってきていて、近くに道場あり、時々トレーニングできると話していた」

ビグダシュは道場に行き、すぐに夢中になった。そしてすぐに、極真空手が今後何年もやっていきたいものだと気づいた。

「ジムの非常に特別な雰囲気を含め、あらゆることが好きだった」

「みんなとても情熱的にやっていて、ほとんど精神的な体験だった。今日の世界ではジムとは呼ばないだろう。道着を着るのが大好きだった」

家族は転勤を続けたが、どこに行っても格闘技は生活の一部として、安定感を提供してくれた。また、いつも転校生としていじめの標的になったため、格闘技はビグダシュに、必要な自信を与えてくれた。

「いじめは決して許さなかった」

「ケンカしなければいけないときもあった。あの年代はみんなそうだと思う。でも今ではおかげで、ロシア全土にたくさんの元クラスメートがいてうれしい」

リングに上がって

ビグダシュは極真空手への情熱を一段、引き上げ、地方大会に出場し、勝利を挙げ始めた。

さらに他の格闘技にも興味を惹かれ、すぐに新しい情熱をいくつも見付けて身を投じた。まずはムエタイ、そして総合格闘技だった。

「1994年と1995年の最初の総合格闘技の戦いを見て、ロイス・グレイシーに憧れたのを覚えている」

「打撃とレスリングを試してみたが、すぐに総合格闘技が格闘技の頂点だと気付いた。自分の考えでは、それは本当の戦いに最も近いもので、あらゆる側面のトレーニングを楽しんでいる」

格闘技への愛情と、試合への強い意欲により、ビグダシュは格闘家として生きることに決めた。熱心に練習に取り組み、2012年にプロになる前から、空いた時間をトレーニングに費やしていた。

「自分の道は非常に明確だった。格闘技の世界以外に、他の興味や趣味はなかった」

「格闘家以外になろうとは思わなかった。自分は目標志向の人間なので、訓練で規律を保つのは簡単だった。常に次の目標に集中し、それを達成するまで気を緩めることはない」

ONEチャンピオンシップ

ビグダシュは2012年8月、とうとうプロデビューを果たす。最初の対戦相手は第1ラウンド、アームバーでサブミッション勝ち。そしてそこから7連勝を挙げ、しかも全てがフィニッシュ勝ちだった。こうしてONEへの道が開く。

ONEデビュー戦はONEミドル級世界タイトル戦で、イゴール・シヴィリを相手に総合格闘技史上最もスリリングな熱闘を繰り広げた。ビグダシュは超人的な粘り強さを見せて相手の攻撃に耐えた後、パンチとヒザ蹴りにより、KOでの大勝利を収めた。

2015年のその試合後、ビグダシュは次の試合まで1年以上待たなければならなかった。だが5ラウンドに渡ってアウンラ・ンサンを圧倒し、さび付いた素振りすら見せなかった。

数ヵ月後、アウンラ・ンサンの母国ミャンマーでの再戦に臨み、5ラウンドの激闘の末にビグダシュはベルトを失った。この試合は2017年の年間最優秀バウトにも選ばれたほどの名勝負だった。

苦い敗北を味わった後、ビグダシュはリベンジの機会を目指して再起を誓ってきた。病気やケガに悩まされた厳しい数年だったが、目標を決してあきらめなかった。そしてついに、その粘り強さが報われるときが来た。

「この戦いがどうなるか正確に言うことはできないが、以前よりももっと激しい戦いになるだろう」