「彼なら格闘技を日本社会全体が熱狂する文化にできる」―ONEチャトリCEOが田中俊太郎氏にONE JAPANの未来を託した理由
「彼は非常に誠実で真面目な人です。ただ、その内側には圧倒的なガッツがある。そして周囲の心に火をつける不思議な力を持っている。日本が生んだ、最高レベルのリーダーの一人だと確信しています」
ONE Championship創設者兼CEOのチャトリ・シットヨートン氏が、そう語る人物こそ、ONE Japan CEOに就任した田中俊太郎氏だ。電通で28年にわたるキャリアを築き、国内外の大型プロジェクトを数多く手がけてきたビジネスリーダーが、なぜ格闘技の世界へ身を投じることになったのか。その背景には、チャトリ氏が見抜いた田中氏の本質と、二人を結びつける深い信頼があった。
ビジネスの能力だけではない「大和魂」
チャトリ氏が田中氏を評価した理由は、28年というキャリアの長さだけではない。「彼の中には、日本人が昔から大切にしてきた精神があります。私はそれを”大和魂”と呼んでいます」とチャトリ氏は言う。人を守り、チームを束ね、人の心に火を灯す力。チャトリ氏はそこに、真のリーダーの姿を見た。
「私は世界へつながる橋になる。俊太郎は日本社会へつながる橋になる。私たちは互いの経験を補い合える存在です。だから私は彼を”兄弟”と呼んでいます」
条件ではなく、志で決めた決断
チャトリ氏は率直に明かす。「最初は、彼が本当に来てくれるとは思っていませんでした」。電通で責任ある立場にいた人物が、すべてを置いて新しい世界へ飛び込んでくるとは想像しにくかったという。
それでもチャトリ氏は問いかけた。「俊太郎、君は何のために働くのか。日本のパワーを世界に出さないか。一緒に新しいヒーローを生み出さないか。武道の価値観を守らないか」。翌日、田中氏はビデオ通話でこう答えた。「日本のために、ONEのミッションに加わりたい」。
その時点で、役職や条件の話は一切出ていなかった。むしろ後に提示された条件を、田中氏が「自分には多過ぎる」と遠慮したほどだったという。「地位や報酬ではなく、志で人生の舵を切った。その決断に、私は深く心を打たれました」とチャトリ氏は語る。
格闘技の「外側」を知る人間だからこそ
チャトリ氏が田中氏に期待するもう一つの理由が、田中氏がもともと格闘技業界の人間ではなかった点だ。「俊太郎は既存の枠組みにとらわれません。テレビ、スポンサー、エンターテインメント。そうした日本社会の中心と格闘技をつなぐことができる人間です」。
かつてPRIDEやK-1の時代、日本の格闘技は世界の中心にいた。チャトリ氏はその灯を再び大きくするために、広告業界で培った経験と日本社会を俯瞰する視点の両方を持つ田中氏に賭けた。「彼なら格闘技を一部のファンのものではなく、日本社会全体が熱狂する文化にできる」。
「不屈」で結びついた二人
チャトリ氏にとって、日本は特別な国だ。侍の家系だった祖父から「100%で挑め。倒れても必ず立ち上がれ」と教えられた精神が、彼の根底にある。一方の田中氏もまた、極限の状況で立ち上がる格闘家の姿に心を震わせてきた人物だった。チャトリ氏の信念と田中氏の原体験、二人を結びつけているのは「不屈」という言葉だ。
仲間が見送った最終日が証明したもの
電通の最終出社日、オフィスには多くの社員が集まり別れを惜しんだ。その光景を目の当たりにしたチャトリ氏は確信したという。「彼がどれだけ周囲から信頼されている人間なのかが、よくわかりました。これこそが、私が日本の未来を託すべき”現代の侍”なのだと」。
日本の格闘技を再び世界へ——。誰よりも誠実に、誰よりも日本を愛する男とともに、その新たな章が今、幕を開けようとしている。