特集

プーケットの草分け的ジム、タイガー・ムエタイ

2020年5月1日

まずはタイを思い描いて欲しい。

次に南国のビーチと、大仏が上に立つ丘を想像してほしい。それがプーケット島の町チャロンだ。

チャロンは自然や史跡など様々な名所があり、地元の植生が茅葺き屋根を形作り、米国人旅行者やタイのビジネスマンが訪れる。「Tiger Muay Thai & MMA Training Camp(タイガー・ムエタイ&MMAトレーニング・キャンプ)」もその1つ。

“タイガー”は当初、質の高いムエタイのテクニックを学べる、のどかな通りにある慎ましいジムだった。だが、デジタルマーケティングと多様なトレーニング提供を通じ、今では世界最高のトレーニング場所の1つになった。

創世期

“タイガー”は2005年に ウィリアム・マクナマラによって、現在は“フィットネス・ストリート”として知られる「Soi Ta-iad(ソイ・ターイアット)」という名の通りに作られた。マクナマラは当時、きちんとしたムエタイを学べる場所を求めており、自分で開くことにしたのだ。

初めは茅葺き屋根にボクシングリング2つと、サンドバッグ数個で始まった。その当時、ソイ・ターイアット通りはまだ、今のムエタイ愛好家が知っているような、レストランやジム、ホテルが立ち並ぶ活気に満ちた場所ではなかった。ゴムの木の区画や屋台、遊休地からなる1.5キロメートルの道路だった。

“タイガー”はこの通りで成長した最初のビジネスであり、ムエタイ観光を本当に始めた最初のジムだった。“タイガー”が最初で唯一のジムだったと言うわけではない。実際、チャロンには他に3つ、そしてプーケット島の他の地域にもいくつかのアカデミーがあった。

マクナマラは総合格闘技のファンでもあり、1日に2回のムエタイのセッションに加え、すぐに総合格闘技のトレーニングプログラムを導入した。当時のタイで総合格闘技を教える、数少ないジムの1つだった。

そのことが、2011年に“タイガー”を訪問し、後に「ONEウォーリアー・シリーズ(OWS、ONEの人材育成、発掘のための大会)」に参戦するアレックス・シルトの目を引いた。

「グーグルで“タイガー”について知った」

「当時のタイで、グラップリング(組み技)や総合格闘技格闘技をやっていた数少ないジムの1つということに、まずは惹かれた。ムエタイをトレーニングしたいと思っていたのはそうだが、一緒にグラップリングもできるというのは、抵抗し難いほど魅力的に思えた」

シルトが島でトレーニングを始めた直後、タイ総合格闘技のパイオニアであるシャノン・ウィラチャイがキャンプを探し当てた。幸運なことに彼は、最近米国からプーケットに移り住んできた総合格闘技のスーパースターの下でトレーニングすることができた。

「“タイガー”に初めてきたのは8年くらい前。ジョン・ナットがつないでくれて、ONEチャンピオンシップの初試合の準備をさせてもらった」とウィラチャイは振り返る。

「当時は(“タイガー”について)何も知らなかった。分かっていたのは、この一生に一度のチャンスに備えるために、できる限りのことをする必要があるということだけだった」

「“タイガー”のヘッドコーチが(米国の総合格闘家)ロジャー・ウエルタで、彼が自分を見てくれると聞いた時はものすごくうれしかった。以前別のジムで彼のクラスにいたことがあって、とても良かったから」

プーケットの美しさに惹かれて、“タイガー”に来る人たちもいた。広大なビーチ、新鮮な島の空気、豊かな自然があり、休暇にトレーニングを組み込む「トレーニング・バケーション」の行き先として、プーケットは理想的な場所だった。そしてマクナマラが生かしたかったのもそのことだ。

米国人実業家とチームは、ジムを売り込むためにインターネットを活用した。ムエタイ関連のYouTubeチャンネルを立ち上げ、何百万もの閲覧数を獲得した。また、見やすい英語のウェブサイトを作ったほか、Facebookページを開設した最初のムエタイジムの1つでもあった。

時間が経つにつれて、ジムはプーケットの主要なキャンプの1つになった。トレーニングの質と多様性がそれを物語っている。

“タイガー”はデジタルマーケティングと忠実な顧客基盤を通じて、大勢のフォロワーを獲得した。加えて、ほとんどの顧客がリピーターとなり、家庭的な雰囲気が生まれた。

次のレベルへ

マクナマラは2015年、タイのビジネスマンのグループに“タイガー”を売却した。そのうちの1人、ビワット・サクラットが代表取締役に就任した。

「正直なところ、タイガーを購入した本当の理由は、可能性を見たからではなくて、ムエタイが好きだったからであり、他のジムとは異なる何かをしたかったからだ」とサクラットは説明する。

「元のオーナーが非常に強力な基礎を作り上げていたから、そこから続け、変更を加えるのは簡単だった」

サクラットとビジネスパートナーはその基礎を使い、既に成功しているビジネスモデルをさらに改善。その後、ジムの改築、拡張、近代化に取り組んだ。

新しい“タイガー”は9千200平方メートルの広さになった。ジムの周囲をサンドバッグが取り囲むように配置され、ボクシングリングは5つ、それにプロサイズの総合格闘技のケージが中央にあった。そして古い運動器具は、筋トレやコンディショニング用の機器に取って代わられた。さらに指導者として、世界中から40人のトップクラスのトレーナーが招かれた。

結果としてジムの人気は爆発した。

「“タイガー”にとっての転機は、改修を施し新しい施設を建設した後だったと思う」とサクラットは話す。

「素晴らしいスタッフ、良い環境、そしてより良いトレーニング機器を備えていた」

Tiger Muay ThaiでGeorge Hickmanが石毛里佳にテクニックを指導

2014年からジムの総合格闘技プログラムを率いてきた米国人トレーナー、ジョージ・ヒックマンによると、コーチ陣なしには今日の“タイガー”はない。

「自分の周りのコーチングスタッフは素晴らしい」

「ムエタイ、ブラジリアン柔術、総合格闘技、フィットネス、ボクシングなどのコーチによる、一貫性とハードワークが、自分たちを際立たせている。“タイガー”で違いを生み出しているのはコーチたちだ」

改装された施設に加えて、キャンプには独自のレストランを備えている。このレストランでは、世界中から訪れる観光客においしいタイ料理のすべてを提供している。

さらに、味や食事の多様性を犠牲にすることなく栄養を最適化したいと考えるアスリートのために、健康的なメニューを提供。プロテインシェイクやスムージー、新鮮な有機ジュースを堪能でき、“タイガー”の栄養士に相談することもできる。

“タイガー”はムエタイに特化したアカデミーから始まったかもしれないが、すぐに世界的な魅力を持つメガジムに生まれ変わった。代表取締役のサクラットは、初めから大きな期待を持ってはいなかったと認める。

「自分たちの計画は世界一になることではなかった。だがスタッフが良い生活を送れ、仕事がやりやすいよう、そして非常に素晴らしい環境を整えようとした」と、サクラットは説明する。

「6ヶ月後、お客様から良いフィードバックをもらった。その時、自分たちは最高のジムの1つになる可能性があると考え、ビジネスのあらゆる側面を改善し続けた。そこからは自然に有名になっていったと思う」

有望な未来

Tiger Muay Thaiでトレーニングするポンシリ・ミートサティート

長年にわたり、“タイガー”の人気とビジネスは飛躍的に成長してきた。

ジムは現在、世界最大のムエタイおよび総合格闘技の目的地の1つであり、Facebookだけで100万人を超えるフォロワーを誇る。独自ブランドのギアやウェアさえ持っている。

いつでも世界中から、フィットネスに関するそれぞれの目標を持った人々が“タイガー”を訪れる。それがジムを特別なものにしている理由だ。体重を数キログラム落としたい人から、ONEチャンピオンシップで戦っている人まで、“タイガー”はほぼすべての人に対応している。

ウィラチャイや石毛里佳(タイ)、ポンシリ・ミートサティート(タイ)らのトレーニングを担当するヒックマンは、“タイガー”ほど多面的なアプローチするジムはほとんどないと感じている。

「たくさんのONEチャンピオンシップの選手を抱えているが、ONEは今のところアジアを中心に活動しているから、慣れるためにここでキャンプするONEの選手もたくさんいる」

「とてもフレンドリーな環境だし、総合格闘技については、どのセッションでも世界中からやってきたトレーニングパートナーがいる。ここで得られるトレーニングパートナーの量と多様性は、“タイガー”の最も優れた点の1つだ」

そのため“タイガー”は、ロシアのノックアウトアーティスト、ティモフィ・ナシューヒン(ロシア)やベトナム系米国人スター、ビー・ニューイェンなど、他のアスリートも魅了している。

Tiger Muay Thaiでトレーニングするタイの総合格闘家シャノン・ウィラチャイと石毛里佳

また、ムエタイは地元の文化に深く根ざしており、タイの人々は一般的にとても親切なので、“タイガー”でのトレーニングを希望する人にとって、リラックスした雰囲気ができている。

「タイでのトレーニングは米国と比較して、非常にストレスが少ないと思う」と、ヒックマンは付け加える。

「“タイガー”のロケーションは素晴らしい。ビーチはあるし、健康に良い食事を提供する場所がたくさんある。“タイガー”に全てが揃っているから、別のジムに行く必要はない。天気もいいし、気候もいいし、ビーチがある」

2017年からONEに参戦しているエミリオ・ウルティア(米国)は、 2014年に初めてジムのドアを叩いた。

毎年恒例のタイガー・ムエタイのトライアウトで奨学金を獲得し、それ以来ずっとここにいるのだ。

「“タイガー”は特別な場所。どんな格闘技のどんなレベルであっても、必要なスキルのトレーニングを受けることができる。ムエタイからボクシング、フリースタイルレスリング、それにタイの伝統武術クラビー・クラボーンまでね」

「クロスフィットから水泳、ヨガなどの回復プログラムまで、フィットネスのあらゆる側面も網羅している」

Tiger Muay Thaiのエミリオ・ウルティアと、その後ろに立つコーチのGeorge Hickman

“タイガー”が今日の姿になるまでには、10年以上かかった。だがジムのブランドが成長するのと同じように、かつてチャロンの静かな通りに佇んでいた素朴な茅葺き屋根の施設を誕生させた通りやコミュニティも成長している。

「8年以上の間、(ソイ・ターイアット通りの)成長を目の当たりにしてきた。自分の意見では、コミュニティ全体が存在する理由は“タイガー”だ」と、シルトは話す。

「プーケットのムエタイから総合格闘技やフィットネス業界まで、全ては“タイガー”のおかげで始まった」

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