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【9/6大会】真っ向勝負のファイトスタイル、工藤政英の足跡と挑戦

2019年8月31日

“クレイジーラビット”こと工藤政英の評判はONE登場前からすで知れ渡っていた。特に日本のキックボクシングファンの間では、工藤といえば鮮烈なノックアウトシーン、スリリングな試合ですっかりおなじみなのだ。

28歳の工藤はREBELS55kg級タイトル、RISEフェザー級タイトルを獲得、アクション満載のファイトスタイルで一躍人気者の座に駆け上がった。身をさらけ出して勝利を追い求める工藤の攻撃性と強烈なパンチが、ファンに受けている。

日本で名をなした工藤は、今度は世界の舞台でのブレイクを狙うべく、「ONE: IMMORTAL TRIUMPH」で5度ムエタイ世界王座を獲得したパンパヤック・ジットムアンノンと対戦する。

9月6日にベトナム・ホーチミンで行われるONEスーパーシリーズ・フライ級キックボクシング戦に先立ち、工藤のこれまでの足跡を振り返ってみることとしよう。

未来を模索

工藤は群馬県高崎市に生まれた。手の掛からない子供だったが、都会から遠く離れた田舎町の学校で何となく過ごしてしまったせいで、自分の行く末を見定めかねていた。

「すごく明るい子供だった。お笑いが大好きで、いつも友達とつるんでいた。一番つらかったことは勉強だったかな」と工藤は明かしている。

「勉強はしたけど、暗記が苦手で、ホントに嫌いだった。将来何になるのかは、何も考えていなかった。ただ、高校を卒業して、就職するのだろうと思っていただけだった」

工藤は兄の影響で小学3年から野球をしていたものの、それほどの興味は持ず、何か他のスポーツをしようという気持ちも持っていなかった―-そう、テレビで格闘技中継を見るまでは。

「当時はKー1が大好きで、いつもテレビで見ていた。それでキックボクシングをやりたいと思うようになったんだ。とはいえ、まだそれほど真剣でもなく、まずは群馬のジムで趣味程度に始めてみた」と工藤は振り返る。

絶好の機会

Masahide Kudo faces Singtongnoi Por Telakun at ONE: INGDOM OF HEROES

高校を卒業すると、工藤は東京に引っ越し、パン屋で働きながら、日本で最高のキックボクシングジムの1つ、新宿レフティージムに入会する。

そこには当時、10人ほどの現役プロキックボクサーが所属していたというが、彼らの高い志に触れることで、工藤も新たな目標に向けて打ち込んでいく気持ちの高まりを感じたのだった。

「パン屋での仕事はただの仕事という感じで、別に苦痛でもなかったけれど、ただこんなことを続けていくことは無駄だ、このまま人生が終わってしまうと考えるようになった」と工藤は言う。

「生まれて初めて、何かに真剣に取り組もうと思うようになった。東京で仕事をしながら練習をするうちに、自分も試合に出てみたいと思うようになり、レフティージムでプロのキックボクサーになるべく、仕事を辞めたんだ」

キックボクシングでも生計を立てられると考えた工藤は、ついに人生で大切なことに向けての努力を始めた。工藤は住み込みの道場生になったのだ。家賃を払う代わりに、トレーニングの合間にコーチとして働いた。

誰にでも向いているわけではない厳しい生活だった。スパーリングはノックダウンやノックアウトは当たり前のハードなものだったが、工藤は順調に強くなり、その後の成功へとつながっていく。

「住み込みは自分だけだった。他の人はみんなすぐに辞めてしまい、最終的には自分1人だった」と工藤は語っている。

「朝に練習をしたら、コーチとしてクラスを担当する。午後にはまた練習、その後また指導をして、夜にまた練習だ。お金はなかったけれど、精神的にとても強くなったと思う。ハングリーな毎日だった」

「会長には、チャンピオンになるまで住み込みでやらせてくださいと言ってあった。そして2015年にREBELSでチャンピオンになった後、道場を出た」

「チャンピオンになったことは、とてもうれしかった。野球や他のことでは、ちゃんと1つのことに集中することがなかったので、最初のタイトルを取り、歴史に名を残した時には有頂天になった」

「初めてのタイトルマッチはプレッシャーがすごくて緊張したけれど、おかげでかえって集中力が高まったんだと思う」

挫折と疑念

Masahide Kudo faces Singtongnoi Por Telakun at ONE: INGDOM OF HEROES

プロのキックボクシングは生半可な気持ちではつとまらない。工藤も、逆境でも生き残るための気持ちの強さが問われたこともあった。

プロになってまもなく、ビッグマッチでひどいケガを負ってしまった時、工藤は練習を休まなければならなくなり、やる気をなくしてしまったのだ。しかし、周囲の助けもあって、闘志を取り戻す。

「REBELSの55キロ級トーナメント戦で、現RISEチャンピオン鈴木真彦との試合でやってしまった眼窩(がんか)底骨折は最悪だった。鈴木のパンチはめちゃくちゃ強かった」と工藤は明かしている。

「モチベーションが下がってしまったが、チームメートの支えもあって、何とか立ち直り、ケガから回復して、またやる気を取り戻したんだ」

初めてのベルトを獲得した後に喫した2つの敗戦で、キックボクシングの世界でやっていく自信を失い始めていた時にも、チームや家族に元気をもらってやり続けることができた。

「BLADE FCでは第1ラウンドでノックアウト負けを喫し、REBELSでは小笠原瑛作に2分もかからず負けてしまった」

「その時は、正直潮時なんじゃないかと思った。それで、浜川憲一会長のところに引退を告げに行ったんだ。でも会長は、温かい言葉で励ましてくれた」

「両親もまだ応援してくれていたし、友達も自分の試合をもっと見たいと言ってくれた。周囲の声のおかげで、自分の考えは変わった。いま振り返ってみても、周囲の人たちには本当に感謝している」

新たな戦い

工藤は昨年6月に、自身2本目のベルト、RISEフェザー級タイトルを獲得した。

RISEは世界中から最高のファイターを招聘(しょうへい)しており、工藤はその中で、自分もキックボクシング界のエリートファイターの1人であることを証明したのだ。

激しい打撃の攻防に進んで飛び込んでゆく工藤の姿は、まるでK-1 World Maxを2度制したキックボクシングのアイコン、魔裟斗を彷彿とさせる。

「魔裟斗はすごい。ホントにかっこいいし、攻撃的だ」と工藤は言う。

「打撃の応酬はキックボクシングで一番面白いところだ。だって、普通の生活ではやってはいけないことだから! あの緊張感とスリル、そして勝った時のみんなのうれしそうな顔。それが全てなんだ」

真っ向勝負に応じる傾向、キャリア19勝中13勝がノックアウトという高いKO率、そしてファンとの強いつながりを持つ工藤は、まさにONEスーパーシリーズにぴったりの選手だ。そして工藤は、海外ファンの目の前でも名をあげることを楽しみにしている。

ハイペースな2試合を経て、工藤は今回のパンパヤック戦を心待ちにしているのだが、ONEファイターの中に理想的な試合ができそうな意中の相手が他にもいるのだという。

「ロッタンと戦いたい。ロッタンの試合は本当に面白いし、自分との試合はとんでもなく楽しい試合になると思う」と工藤は語っている。

「ロッタンはテクニックよりもパワーの選手で、非常にアグレッシブなファイトスタイルなので、ぜひ戦ってみたい。それに、アメリカ人のファイターとも戦ってみたい。強烈なパンチの応酬がファンに喜んでもらえると思う」

ホーチミン | 9月6日 (金) | 21時(日本時間) | 中継:ONEチャンピオンシップ公式アプリで生中継(無料)