修斗VSパンクラス特別連載番外編:佐藤ルミナに聞く

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「ONE:CENTURY 世紀」夜の部「ONE:CENTURY PART Ⅱ」で、日本を代表する総合格闘技団体の修斗とパンクラスの4階級の両団体王者が激突する。決戦を前に、スポーツライターの布施鋼治が、修斗の存在を世間一般まで浸透させた佐藤ルミナに王者対抗戦への思いを聞いた。

佐藤ルミナ、修斗-パンクラスの対抗戦を語る。1

本名・佐藤留美奈(さとう・るみな) 1973年12月29日生まれ。神奈川県小田原市出身。元修斗環太平洋フェザー級王者。現在は一般社団法人日本修斗協会理事長やアマチュア修斗委員会委員長を務める傍ら、地元小田原市でrootsを主宰。後進の育成に励む。

混乱の時代を糧に

修斗とパンクラスとの対抗戦となれば、佐藤ルミナは修斗を応援する。

そう思う人も多いでしょう。パンクラスと修斗の歴史を知っている人であれば、なおさらそうなると思います。

でも、僕の立場はあくまでニュートラル。どちらも応援します。両組織の歴史を知っている人からすれば意外と思われるかもしれないけど、ここ数年の格闘技だけを見ている人からすれば、「当然なんじゃなの?」という感じだと思う。

当然、以前だったら僕も修斗にこだわりを持っていました。RIZINが始まった年にRIZIN実行委員長である榊原信行さんからテレビの解説を頼まれた。現役時代、僕はPRIDEからのオファーがあっても断ってきました。ほかの修斗の選手は出たりしたけど、自分には「誰かひとりは修斗に残らないと」という思いが強かったからです。当時はそうすることで修斗のスタンスを守り続けていたと思います。

でも、過去は過去で清算する時が訪れる。だからこそRIZINからのオファーがあった時、髙田延彦さんと話をさせてくれというリクエストを出しました。UWF系の人と一緒に仕事をするならば、自分が思っていることをU系の象徴だった髙田さんに素直に伝えたいと思ったからです。

案の定、実際に会ったら髙田さんもそういうふうに思われていたことはすごく感じていたと言ってくれました。そこでお互いのわだかまりは解けた。

修斗—昔のシューティングはかつてタイガーマスクをやっていた佐山聡先生がプロレスの中では自分の理想を追求できないということで、プロレスを辞めてアマチュアスポーツから作り始めた競技です。

一方のU系はプロレスをうまく利用しながら現在の総合格闘技にたどり着いた。そこが僕らとしてはイヤな部分だった。でも、RIZINからの話が来た時、「もうそういう時代ではないのかな」と思いました。

いまでこそ世間はプロレスはプロレス、格闘技は格闘技というふうに区分けして見てくれる。でも、昔はプロレス最強伝説が根強くあったので影響力も強かった。実際一般の人たちには「プロレスラーは真剣勝負をやっても強い」という幻想があったじゃないですか。でも、僕らは「総合格闘技というルールであれば、総合格闘技をやっている奴が強い」という単純なことを世の中に知らしめたかった。でも、なかなか世間にはそういう主張が認められなかった。

だからこそ僕の中ではU系のプロレスラーが大嫌いだった時期もあった。向こうは向こうで意識していたと思うし、何らかの後ろめたさもあったと思う。

総合格闘技が世間に認められるようになったのはUFCのおかげだと思います。UFCが世界に総合を広め、プロレスとは完全に違うものであることを広めてくれた。僕の中ではずっと主張し続けてきたことが世の中にようやくわかってもらえる時代になったということです。

だからもうプロレスと総合は違うものだということを声を大にして言う必要はなくなった。ずっと僕が主張してきたことがようやく世間にわかってもらえるようになった。

格闘技とプロレスがゴチャゴチャになっていた時代があったからこそ今があるんだと思います。

「日本の力」見せて

今、パンクラスと修斗がやっていることは同じ。ルールが若干違うだけで、ユニファイドルールに極めて近いルールで闘っている。僕からみれば、パンクラスと修斗は日本で頑張っている二大団体です。こんなこと僕の立場でいうことではないかもしれないけど、正直どちらが勝ってもいいと思っている。

なぜならパンクラスから総合格闘技を始めていまは修斗に上がっている選手もいる。その逆のパターンの選手もいる。今回修斗世界バンタム級チャンピオンとしてバンタム級キング·オブ·パンクラシストのハファエル·シウバと闘う佐藤将光はパンクラスでデビューしてキャリアを積んだのち修斗に主戦場を変えてチャンピオンになった。

バンタム級のキングオブパンクラシストとして活躍した石渡伸太郎も、総合格闘技のスタートはアマチュア修斗でした。野球だって例えば巨人の選手が阪神に移籍すれば、またその逆もあるわけじゃないですか。トレードが成立しても、巨人は巨人、阪神は阪神です。

今回のようにこんなに大きな規模で現役チャンピオン同士が対決するのは初めてだけど、過去に修斗の王者がパンクラスに上がった例もあれば、またその逆もあると思う。いまやパンクラスも修斗も総合格闘技を愛しているという部分では同じなんです。

ただ、繰り返しになるけど、歩んできた道程が違う。日本の総合格闘技がプロレスから始まったことは事実です。アントニオ猪木さんの影響で、佐山先生は新日本プロレスに入った。全てはそこから始まっている。

そもそも日本のプロレスがなかったら、いまの日本の総合格闘技はなかったでしょう。そういう意味ではプロレスのおかげかなと思います。日本、しいては世界の格闘技は日本のプロレス文化から始まっている。

グレイシー柔術だってコンデコマや木村政彦がいなかったら、存在しなかったでしょう。大昔、新日本プロレスにブラジルから留学生としてやってきたイワンゴメスは新日本プロレスの道場で佐山先生に独自バーリトゥードの独自の技術だったヒールホールドを教えた。そういう流れを我々は受け継いでいる。そういう意味でパンクラスと修斗は兄弟みたいなものかもしれない。

だから今回はどちらを応援するというわけではなく、日本そのものを応援したい。元を辿れば、ほぼ一緒なわけで、ONEという巨大な組織のもと、ひとつになって闘う。ONEがなかったら、こういう形で対抗戦を行なうことはなかったと思う。

今回のように対抗戦を実施することでお互い歩み寄り認め合い、切磋琢磨することで日本の強さを改めて海外に見せられるのではないか。そういう期待はあります。

対抗戦の4試合には「日本の格闘技はすげぇぞ」「総合格闘技は日本が発祥だぞ」という部分を見せてほしい。



布施鋼治(ふせ・こうじ)1963年7月25日生まれ。札幌市出身。スポーツライター。中でも総合格闘技、キックボクシング、レスリングへの造詣が深い。五輪は北京大会以降、連続して現地取材を続けている。ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作の「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)などの著書がある。Number、共同通信で格闘技コラムを執筆。テレビ東京系列の番組「格闘王誕生!ONE Championship」では解説を担当。

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