Opinion

高島学が解説ーきょう両国大会注目ポイント

2019年10月13日

いよいよ今日開幕する史上最大の世界選手権格闘技イベント「ONE:CENTURY 世紀」。フルスケールの世界選手権格闘技イベント2大会が朝夕2部で行われ、注目カードが目白押しの1日となる。

盛りだくさんの1日を前に、総合格闘技ウェブサイト「MMAPLANET」主宰の高島学に注目の試合予想を特別に寄稿してもらった。

クリスチャン・リーVSザイード・フセイン・アサラナリエフ

わずか大会開催の17日前、9月26日に発表されたONE世界ライト級王者クリスチャン・リーとザイード・フセイン・アサラナリエフのONEライト級世界グランプリ(WGP決勝戦。本来エディ・アルバレスがアサラナリエフと対戦予定であったが、負傷欠場でリーに白羽の矢が立てられた。総合格闘技に三段論法は通用しないが、敢えて書き記すとアサラナリエフと戦うはずだったアルバレスはトーナメント初戦でティモフィ・ナシューヒンに4分05秒でKO負けを喫している。アサラナリエフは逆にナシューヒンをわずか1分57秒でKOしている。

WGPでもエブ・ティンを25秒、アミール・カーン戦を2分56秒という初回KOに葬っているアサラナリエフは、レスリングベースでありながら、ずば抜けたKO力を誇る。彼の打撃の特徴は離れた位置よりも、接近戦にある。いわゆるダーティーボクシング…。クリンチの状態で放たれるパンチは強力無比だ。特にアッパーは、自らのヒザは沈めたと同時に拳を突き上げられることで、一歩も動かない状態で思い切り踏み込んだような衝撃を相手に与えている。自らエレベーターが降下するときの一瞬フワッとした瞬間を自ら作り出す動作は、古流武術でいう「浮き身」という状態に通じている。強大なフィジカル的強さを持つ一方、自然と武術の理が体に染みついているアサラナリエフと、ほぼ準備期間がない状況で戦うリーの不利は否めない。

いや彼のキャリアに致命的なダメージを与える危険性すら秘めている。それほどアサラナリエフは強い。その一方でアサラナリエフの強さを無にする戦いをリーがすることも可能だ。間合いのコントロール—距離とタイミングを自らの支配下におけばアサラナリエフの攻撃は当たらず無力化できる。これを実現するのは、まさに神業。ライト級王者が最強・最怖の相手に達人となることができるのか—当日を待つのみ、だ。

デメトリアス・ジョンソンVダニー・キンガッド

デメトリアス・ジョンソンことDJが、ONEフライ級世界グランプリ決勝で新世代ラカイファイターのダニー・キンガッドと対戦する。

UFC最多防衛記録、11度も世界フライ級のベルトを守ったDJは打撃とテイクダウンを融合させた抜群のレスリング力を誇り、寝技でも徹底したレスリング流コントロールと柔術的トランジション、さらにサブミッションでフィニッシュでき、スピード、スタミナ、ストレングスと総合格闘技に必要な全てのエレメントが、最高レベルに達しているコンプリードファイターだ。

そのDJONEでの過去2戦で、若松佑弥のパンチでバランスを崩し、和田竜光にはバックマウントを取られるなどピンチを経験している。総合格闘技界にパウンド・フォー・パウンドも、水抜き減量なしの56.8〜61.2 キロというONE階級での試合、飛行機での長旅、そして時差というUFC時代にはなかった三重苦とも直面している。とはいっても若松戦、和田戦ともピンチは初回のみでしっかりと修正し、若松をマルセロチン、和田にはテイクダウン&ポジション奪取で圧倒するなど、と終わってみれば強さを十分に見せて勝利してきた。

対するキンガッドは散打をベースにレスリング、寝技と幅を広げてきた24歳の新鋭だ。標高1500メートルの高地で普段から生活し、ハードトレーニングを課すことで無類のスタミナとフィジカルの強さを誇る。現在6連勝中のキンガッドだが、フィニッシュも一方的な勝利もない。常に拮抗した試合でギリギリのところで勝利を手にしてきた。この接戦での強さこそが、キンガッドの最大の強みといえる。ギリギリの勝負を落とさない。それはキンガッドもDJに負けない修正力を持ち、さらに試合中に成長するという若く才気溢れる人間のみが有する勢いがあるからだ。このキンガッドの勢いは、DJすらも巻き込む可能性を十分に秘めている。

アンジェラ・リーVSション・ジンナン

Angela Lee will defend her belt against Xiong Jing Nan in the ONE: CENTURY PART I main event

アンジェラ・リーとション・ジンナン、今年3月に東京で開かれた「ONENEW ERA 新時代」で戦った両者が、再び拳を交える。前回はションの持つ女子ストロー級世界王座にリーが挑戦した形で行われたのに対して、今回はリーの持つ女子アトム級世界王座にションが挑む。

記憶に新しい半年前の激闘。特に4ラウンドにリーが三角絞めのクラッチからションの右腕を伸ばしたシーンは、誰もが鮮明に記憶に留めているだろう。完全に伸び切った──いや、あらぬ方に曲がったヒジと苦痛にゆがむションの表情を。結局、ションは腕を折られることなくラウンド終了まで耐えきり、逆に心が折れたようにリーは最終回にTKO負けに喫した。

その後、リーは7月の「ONE: MASTERS OF DESTINY」で、ストロー級で元柔術界の女帝ミシェル·ニコリニとの再起戦を戦い、よりダメージを与えていたにも関わらず判定負けを喫し連敗中だ。一方のションはリーに勝利して以来の実戦の場が、今回の再戦となる。

これだけ試合期間が空いた裏には、腕十字を耐えきっことで右ヒジの靭帯損傷、あるいは肩を負傷したことも十分に考えられる。

ションの肩の可動域、腕の伸び方に変化がないか、ここは今回の対戦で大きなカギとなる。また、アトム級で戦うことが初めてという点も勝敗の行方を左右するファクターになる。水抜き禁止のONE計量、つまり彼女の1階級下に違い状態を少なくとも2カ月は維持しておく必要があった。

6日の公開練習でかなりスリムになったションの姿が確認できているが、グッドシェイプと戦える体は違う。当日のションのパフォーマンスを見ない限り予想も難しい。1つ確かなことは、不確定要素はションに多いということだ。

アウンラ・ンサンVSブランドン・ベラ

ミャンマーの国民的英雄アウンラ・ンサンが持つONE世界ライトヘビー級王座に、フィリピンのナショナル・ヒーローであるブランドン・ベラが挑戦する一戦が朝夜2部の両国大会の掉尾を飾る。世界ライトヘビー級とミドル級のONE2階級世界王者アウンラ・ンサンに、ONEヘビー級世界王者のベラが挑む戦いだ。

過去に1度、昨年3月バンコクであった「ONE:IRON WILL」で見られた2階級王者対王者の対戦は、当時ONEライト級とフェザー級世界王者だったマーティン・ニューイェンが3階級同士制覇を目指し、バンタム級世界王者ビビアーノ・フェルナンデスに挑戦するという形であった。この時はフェルナンデスがニューイェンに判定勝ちを収めている。つまり上の階級のチャンピオンを、軽い階級の王者が倒したことになる。大きい選手が小さな選手に敗れる。これぞ総合格闘技の妙といえる。では、今回の対戦はどうなるのか。

減量が必要なのがベラで、アウンラ・ンサンにとっては一昨年2月にベルトを獲得して以来のライトヘビー級での試合でもあり、4月から時間を掛けて増量してきた。急激でなく、半年を費やしての増量は恐らくスタミナやスピード面などへの影響はさほどないとみられる。

対照的にこれが11カ月振りの実戦なるベラは、2014年のONE初出場以来、年に1度のファイトを常に1ラウンドで勝利してきた。長丁場になればなるほど、スタミナや勝負勘が持続できるのかという不安要素が存在する。「ブランドン(ベラ)の過去5年に相当するだけの時間、僕は過去1年半の間に戦ってきた」とアウンラ・ンサンは言う。常に冷静沈着、感情がブレることなく、気持ちも切れることもないアウンラ・ンサン。試合が長引けば長引くほど彼が有利になることは間違いない。


高島学(たかしま・まなぶ)1967928日生まれ。神戸出身。海外の総合格闘技情報を掲載する専門ウェブサイト「MMAPLANET」主宰。