【11/16 ONE 173 日本大会】ロッタン、“憧れの存在”ノンオーとの王座戦、その複雑な心境を語る「彼へのリスペクトは永遠に変わらない」
11月16日に東京・有明アリーナで開催される「ONE 173」で、ロッタン・ジットムアンノンはノンオー・ハマと空位のONEフライ級ムエタイ世界王座を争う。それは尊敬と友情に満ちながらも、同時に格闘技の最高峰での激しい競い合いとなる試合である。
元ONEフライ級ムエタイ王者のロッタンは、ムエタイレジェンドのノンオーに長年、敬意を抱いてきた。だが 「ONE 173」では、王座奪還への道を歩む中で、この尊敬する思いを戦場に置かなければならない。
ロッタンの尊敬の念は、元ONEバンタム級ムエタイ王者ノンオーの輝かしいキャリアを目にしてきたことが大きな理由だ。約350戦のキャリアを通じて揺らがぬ勝利への意志を貫いてきたノンオーは、比類なきレガシーを築き上げてきたのだ。
38歳のノンオーはムエタイに於けるほぼ全てのメジャータイトルを制してきた。タイ国内選手権2度、ルンピニースタジアム世界王座4度(複数階級)、ラジャダムナン・スタジアム王座1度の獲得が挙げられる。
その圧倒的なキャリアはONE Championship 参戦時にも継続された。2018年の参戦以来、元王者は7度の世界王座防衛を成し遂げ、そのうち5度は終了間際のKOで決着させている。
年齢を重ねた今もなお、ノンオーは時間に抗い続けている。フライ級への階級変更は新たな活力をもたらし、世界で最もエキサイティングなストライカーとの2階級王座獲得への挑戦権を勝ち取ったのである。
言うまでもなく、ロッタンはノンオーを極めて高く評価している。
「ノンオーに関しては、私がONE Championship と契約を交わして以来、彼はいつも戦い方も人生の在り方も、私のロールモデルだ。コンディショニングの仕方も、彼が最高だ。彼こそ、みんなが従うべき“ロールモデルのロールモデル”であるべき人物。彼へのリスペクトは永遠に変わらない」
現役中に既にレガシーを確立しているノンオーは、キャリアを通じて驚くほどの謙虚さを保ち続けてきた。この謙虚さはロッタンがアイコンである先輩と初めて出会った時から明らかだった。ノンオーは常に静かな威厳を備えた王者として振る舞い、ロッタンはこうした姿勢に惹かれてこの“アイドル”に引き寄せられていったのだ。
その後の友情はシンガポールでの食事を通じて始まり、2019年のプーケットでのONEリトリートを経て深まった。そこで二人の戦士はリングの四隅を超えた絆を結ぶことになったのである。そうした友情があったからこそ、ロッタンは二人がいつか相対することになるなど想像だにしなかった。
「最初から彼と戦いたくなかった。シンガポールで試合をした時に初めて会って、一緒に食事をした。シンガポールにいた時の全ての試合で私たちは一緒にいたんだ。会うたびに、いつも互いに尊敬し合っていた。ノンオーとは戦いたくないと言ってきた。6年前、ONE Championship がプーケットにスターたち全員を集めてのトリップを開催した時も、ノンオーとは戦いたくないと言ってた。彼を尊敬しているから」
ロッタンは長年にわたってこの立場を貫いてきた。彼はフライ級を鉄の拳で統治し、ノンオーはバンタム級王者としての伝説をさらに深めていった。
だが運命は時に困難な状況を強いるものである。
今、二人は対峙することになった。両者はプロとしての自覚に溢れ、自らの格闘技への尊敬が最優先されることを理解している。そして彼らのこれまで積み上げたレガシーも天秤にかかっているのだ。試合終了のゴングが鳴り響く時、世界王座決定戦は終わり、二人の友情は再び戻ってくるであろう。だが、
それまでの間、ロッタンは自らの責任を受け入れなければならない。
「運命の時が来たら、私たちにはやるべき事がある。最高のパフォーマンスを発揮する必要があるんだ」
友情とチャンピオンシップの栄光の狭間で複雑な心境
ロッタンとノンオーの強い友情は彼らの格闘技キャリアをはるかに超えた関係である。二人はリング外で時間を過ごし、二人とも大のサッカー好きで、一緒にプレーするほどだ。
フィールドでのそうした瞬間が、二人が相手と競い合う最も近い場面だったのかもしれない。今や、ビジネスはフィールドからサークルへと移る。
友人の代償として王座を奪回するという考えだけでも、複雑で苦い葛藤を生み出す。ロッタンはノンオーを倒しての勝利が、はたして同じ満足感をもたらすのかと、複雑な心境だ。
「勝ったら、ただ勝つだけ。チャンピオンシップを獲得したら、他の誰もがそうであるように、幸せを感じるんだと思う。でも、タイの別の選手と戦うことは別物。特にノンオーのようなリスペクトが深い選手との対戦は…」
しかしロッタンは何よりもプロであり、ノンオーも同じ心構えで戦場に臨むことを知っている。サークルのドアが閉じれば、彼らは不滅を目指す飢えた世界王座挑戦者となり、友人同士で食事や冗談を交わす者ではなくなるのだ。
この試合への重みは計り知れない。元ONEフライ級ムエタイ王者は、この試合が他のいかなる試合とも異なるものになるという感覚を払い拭うことができない。表面下に何か言葉にならぬ想いが漂っているのだ。
それでもなお、ロッタンは自らの焦点がどこにあるべきか知っている。彼は次のように語り締めくくった。
「幸せになるのか、そうでないのか、この試合に関しては分からない。心の深い部分に何かある。ただ、毎試合で最高のパフォーマンスを発揮して、みんなに私のことを誇りに思ってもらいたい。試合の時は自分のためじゃなく、ファンのため、私を愛してくれる人たちのために戦うだ」